舞台は、沈みかけているタイタニック号。
もはや沈没は避けられそうにない。
救命ボートの数には限りがあり、女性と子供を優先するために、何人かの成人男性の乗客を海に飛び込ませる必要がある。
ここで、船長はいろんな国から来た男性の乗客を、海に飛び込ませようとする。
アメリカ人男性乗客への言葉。
「あなたが飛び込めば、皆に賞賛されるヒーローになれますよ!」
イギリス人男性乗客への言葉。
「ここで飛び込むのは、紳士として当然のマナーですよね」
ドイツ人男性乗客への言葉。
「あなたが飛び込んでください。そういう規則ですから」
フランス人男性乗客への言葉。
「あなたは飛び込んではいけません(または飛び込まなくていいです)」
イタリア人男性乗客への言葉。
「あなたが飛び込めば、あそこにる美しい髪の女性にもてますよ」
そして、日本人男性乗客への言葉。
「ほら、他のみんなも飛び込んでますよ」
一般的に「同調圧力」は「本当は従いたくないのに仕方なく従っている」というロジックで
語られることが多いようだが、本当にそうだろうか?
本当は従いたくないのに仕方なく従う、という行動を子供の頃から繰り返すうちに、いつしか、そうするのが「楽」となり、「正義」となってしまう。
同調圧力を「かける側」には、積極的にそれを行う人間と、結果としてそれに加担する人間の二種類がある。
Aという同調圧力に自分が従えば、その行動によって「Aという同調圧力に従う集団」の人数を、一人増やすことになる。
そこに、Aという同調圧力に従わないBがいる。
そのBに対し「積極的に同調圧力をかける人間」のCが、
「おいBよ、みんながAの行動をとっているのだから、お前も同じようにしろ」と同調圧力をかける。
この時、Aの行動をとっている人間が一人か二人なら、同調圧力の効果はほとんど期待できない。
しかし、Aという同調圧力に従う人間が圧倒的な多数派だったら、
「おいBよ、みんながAの行動をとっているのだから、お前も同じようにしろ」というAの言葉が持つ心理的な威圧の効果は、絶大なものになる。
つまり、本人には「悪気」がなくとも、なんとなく同調圧力に従う人は、結果として、その行動によって、「積極的に同調圧力をかける人間」の力を強めいている。
「積極的に同調圧力をかける人間」の影響力は、「その同調圧力に従う人間の数」によって大きく変動する。
『この国の同調圧力』より一部抜粋
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